台湾のニュースで独学する中国語《台湾華語》

新聞記事を教材にして、台湾社会の「今・現在」を読みながら、初級者向けの台湾華語・台湾中国語を独学するブログです。

台湾先住民の土地をめぐる争議

台湾の各地には、「原住民」 (yuán zhù mín) と呼ばれる、漢族(中国系の民族)が渡ってくる以前からいた少数民族が多数います。
昨年、台湾の総統に就任した蔡英文 (cài yīng wén) は、少数民族を抑圧してきた歴史を、政府として謝罪しました。
今年2月、原住民の土地を保護する法律が公布されたのですが、これが新たな争議を引き起こしています。

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見出しは「原民土地劃設 引爆部落戰火」(原住民の土地区画 集落の戦火を誘発)。
傳統領域排除私地 抗爭導火線」(伝統的な境界 私有地は対象外 抗争の火種に)。

高雄茂林山區有茂林、萬山、多納三部落,萬山舊稱『歐不諾伙』,一九五七年間,政府強迫族人遷村,舊部落距離新部落步行時間至少八小時,結果傳統石板屋淹沒在荒煙蔓草中
(高雄の茂林山地には、「茂林」、「萬山」、「多納」の3集落がある。萬山は旧称を「歐不諾伙」と言い、1957年に政府は村を強制移転させた。旧集落から新集落までは徒歩で少なくとも8時間はかかる。その結果、原住民の伝統的な石積みの家は、荒地に没してしまった。)

「石板屋」というのは、原住民古来の住居で、薄い石を積み上げて作られています。
北海道にアイヌ語由来の地名があるように、台湾にも少数民族が使っていた呼称に漢字を当てた地名が多くあります。
「歐不諾伙」(ōu bù nuò huǒ) などがそれで、原住民の言葉では「オポノホ」のように読むようです。
ちなみに、数年前に世界的な賞を取って有名になった台湾のウイスキーカバラン」(葛瑪蘭)も、少数民族の名前から来ています。

萬山族人雖僅四百多人,但代代不忘『歐不諾伙』,每年舉辦尋根活動。
(萬山族はわずか四百数人しかいないが、代々「歐不諾伙」を忘れることなく、毎年、ルーツをたどる催しを開いている。)

雖 A 但 B」(A ではあるが、しかし B だ)の構文です。
これはちょっと文語的な書き方で、話し言葉なんかでは「雖然 A 可是 B」になります。

茂林に住んでいる部族は「ルカイ族」(魯凱族)とまとめられていますが、この3つの集落で使われている言語が違うのです。
実は、少数民族の呼称や区分は、政府や学者が便宜的に決めただけで、実態や原住民たち自身の認識とは食い違いがあります。

今年、原住民の土地を区画する法律が公布されましたが、伝統的な土地の境界は重なり合っていて、部族がそれぞれ自分の土地だと主張して争いになっています。
「萬山」と「多納」の両部族は、もともと川を境界線にしていたのですが、日本統治時代に、またその後に台湾政府が山を境界線に変更してしまったため、本来の領地とは入れ換わってしまいました。

また、もともと原住民の領域だった土地も、現代ではかなりの範囲が私有地になってしまっています。
180万ヘクタールあったとされている原住民の領域のうち、いまも公有地として残っているのは 80万ヘクタールだけです。
新しい法律では、原住民の土地には、開発の制限などがついて保護されていますが、すでに私有地になっているところは対象外なので、それにも原住民は抗議しています。

《このニュースの用語》
原住民 (yuán zhù mín)
傳統 (chuán tǒng) 伝統
至少 (zhì shǎo) 少なくとも、最小で、最短で
淹沒 (yān mò) 水没する
 この「沒」は否定の méi とは読み方が違います。この記事では水没ではなく、荒れ果てた地に「埋もれた」という意味。
荒煙蔓草 (huāng yān màn cǎo) 荒地、荒れ野原
 霧が立ち込めて、ツタ草が生い茂った様子。荒涼とした様を形容する。
舉辦 (jǔ bàn) パーティやイベントなどを開催する
公頃 (gōng qīng) ヘクタール

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